「70スープラ 人気 ない」という言葉を、スープラファンの間で耳にすることがあります。先代の60スープラが「ネオクラシック」として再評価され、後継の80スープラが映画やゲームの影響で世界的なアイコンとなった今、なぜ間の世代である70スープラだけが、そのような少し寂しい評価を受けてしまうのでしょうか。
決して性能が低いわけでも、魅力がないわけでもありません。しかし、その輝かしい兄弟たちの強烈な個性によって、少しだけ影が薄くなってしまった「不遇の名車」、それがA70スープラなのかもしれません。
この記事では、「70スープラ 人気 ない」と言われる理由を、兄弟モデルとの比較から深く掘り下げていきます。
この記事を読めば、以下の4つのことがわかります。
- なぜA70のデザインがA60/A80のような「象徴」になれなかったのか
- スペックの裏にある「走りの評価」が伸び悩んだ背景
- レースやチューニング文化が生んだ「ブランド力」の決定的な差
- 中古車市場における「価格と需要」の構造的な違い
70スープラが人気のない理由①:デザイン
A70スープラが兄貴分のA60や弟分のA80ほどの象徴的な人気を得られなかった根本的な理由は、そのデザインが時代の「過渡期」にあったことに集約されます。A60が持つカクカクした「ネオクラシック」の記号や、A80が放つ丸みと巨大なウイングが象徴する「90年代JDMアイコン」のような、一目見て「これぞ!」と誰もが認識できる強力なキャラクター性を、A70は持ちきれなかったのです。
スープラ三兄弟を並べてみると、そのキャラクターの違いは一目瞭然です。まずは、それぞれのサイズ感から見ていきましょう。
※数値は最終年式基準
この表からわかるように、A70は全長こそ短くなっていますが、A80に比べて**「幅が狭い」**のが特徴です。A80のグラマラスなワイドボディが見せる“圧”の強さと比べると、A70は少しおとなしく見えてしまうかもしれません。
デザインの文脈を紐解くと、それぞれの世代が担った役割が浮かび上がります。
- A60スープラ(セリカXX):80年代の直線基調なウェッジシェイプと、ロングノーズ・ショートデッキという古典的なスポーツカースタイルを併せ持っています。今見ると、そのカクカクしたフォルムが逆に新鮮で、「ネオクラシック」として若い世代からも再評価されています。
- A80スープラ:筋肉質で丸みを帯びた塊感のあるボディ、そして何と言っても巨大なリアウイング。映画『ワイルド・スピード』の影響もあり、世界中の誰もが「スープラ」と聞いて思い浮かべる、90年代日本のスポーツカー(JDM)を象徴する存在となりました。
- A70スープラ:A60の角張ったデザインから、A80の丸みを帯びたデザインへと移り変わる**「過渡期」**に生まれました。そのため、両方の要素を併せ持っていますが、どちらか一方に振り切った強烈な個性、つまりアイコンとしての“記号”を持つには至らなかったのです。
この「記号性」の差は、オーナーからの評価にも表れています。A70の特徴的な、運転席を囲い込むような「ドライバーズコクピット」は、当時は未来的に映りました。しかし現代の目で見ると、樹脂の質感や少し古いデジタルメーターの意匠に、時代を感じてしまうという声もあります。
現代のクルマの人気を左右するSNSでの**「写真映え」**という点でも、A70は少しだけ不利な立場にいるかもしれません。A80なら巨大なウイングを主役に、A60ならレトロな雰囲気を活かして…といった“撮影テンプレート”が確立されていますが、A70はまだその「勝ちパターン」が浸透しきっていない印象です。
▼ オーナーたちの本音を覗いてみると A70を愛するオーナーからは、「ワイドボディのグラマラスなラインが好き」「自分だけの空間に浸れる、囲まれ感のあるコクピットが最高」といった熱い声が聞かれます。その一方で、「デザインが少し古いのは否めない」という冷静な意見も。これは、A70のデザインが万人受けするタイプではなく、その良さがわかる人に深く刺さる「通好み」の魅力を持っていることの裏返しと言えるでしょう。
▼ もしあなたがA70を選ぶなら A70は、「分かりやすいアイコン」ではないかもしれません。しかし、80年代の直線と90年代の曲線が交差する、この時代にしかない独特の雰囲気を持っています。特に、屋根が外せる「エアロトップ」は、他の世代にはない大きな魅力です。もちろん、年式相応の雨漏りの心配などもありますが、それを補って余りある開放感を味わえるはず。流行りに流されず、自分だけの個性を大切にしたいあなたにとって、A70は最高の相棒になってくれる可能性を秘めています。
70スープラが人気のない理由②:信頼性
A70スープラが走りの面でA80ほどの絶対的な評価を得にくいのは、A80に匹敵する280馬力というカタログスペックを持ちながらも、より重い車重と、特に初期・中期モデルに搭載された7M-GTEエンジンが抱えていた信頼性の課題が、「重くて壊れやすい」というイメージを長くファンに植え付けてしまったためです。
まずは、スペック上の数値を比較してみましょう。
※数値は最終年式基準
A70とA80は、当時の自主規制値いっぱいの280馬力で横並びです。しかし、注目すべきは車両重量。A70は最も重いモデルで1,580kgに達し、なんとA80よりも重い場合があるのです。この「重さ」が、軽快なスポーツカーというよりは、高速道路をゆったりとクルージングする**「GT(グランツーリスモ)カー」**としての性格を強めています。
そして、A70の評判に大きく影響したのが、初期から中期にかけて搭載された**「7M-GTE」エンジンにまつわるトラブルの記憶です。このエンジンは、ヘッドガスケットという部品に問題を抱えやすく、「A70は壊れる」という評判が広まる原因となってしまいました。もちろん、後期モデルで信頼性の高い名機「1JZ-GTE」**に換装されてからは、その問題は大きく改善されました。しかし、一度ついてしまったイメージを完全に払拭するのは難しかったのです。
同時代のライバルと比べても、A70は少し分が悪い状況でした。当時は、日産の**「R32 スカイラインGT-R」**がレースの世界で圧倒的な強さを誇り、「速さの象徴」として神格化されていました。GTカーとしての性格が強いA70は、サーキットでの速さを競う土俵では、なかなか主役になることができなかったのです。
維持費の面でも、少しだけハードルがあります。特に燃費は、現代のクルマと比べると決して良いとは言えません。
- JZA70(A70後期)の燃費:約7.4〜8.3km/L(10・15モード)
- 月々のガソリン代(試算):約1.1〜1.3万円
- ※ハイオク単価185円/L、月500km走行と仮定した場合の参考値です。
これはA80やA60と比べても、わずかに負担が大きくなる傾向にあります。
▼ オーナーが語る実際の走り A70オーナーのレビューを見ると、「重さは感じるけれど、まっすぐ走る安定感は素晴らしい」「どこまでも走り続けたくなる、真面目なスポーツカー」といった声が多く見られます。軽快さよりも、直列6気筒エンジンの滑らかな回転フィールと、どっしりとした安定感を楽しむ乗り方が、A70には合っているようです。あの独特なコクピットに包まれて走る感覚は、一度味わうと病みつきになるというファンも少なくありません。
▼ 購入前に知っておきたいポイント もしあなたがA70の購入を考えるなら、エンジンの種類は大きな判断材料になります。トラブルの歴史が気になるなら、後期モデルに搭載された**「1JZ」エンジンの個体を選ぶのが安心かもしれません。もちろん、7Mエンジンもきちんとメンテナンスされていれば問題なく、独特の味わいがあります。大切なのは、過去の整備履歴をしっかりと確認することです。幸いなことに、近年ではトヨタ自身が「GRヘリテージパーツ」**として復刻部品を供給しており、維持の環境は以前よりも格段に良くなっています。
70スープラが人気のない理由③:ブランド力
A70スープラがA80のような不動のブランド力を築けなかった大きな要因は、モータースポーツでの華々しい活躍と、それに伴うチューニング文化の**“神話性”**に差があった点です。A80がレースでの勝利や「2JZエンジン」という伝説で世界に名を馳せた一方、A70は強力なライバルの影に隠れ、決定的なヒーロー像を確立するには至りませんでした。
クルマのブランドイメージは、レースでの勝ち星によって大きく左右されます。
- A80スープラ:日本の最高峰レースである**JGTC(現在のSUPER GT)**で、伝説的な「カストロール・トムス・スープラ」が1997年にシリーズチャンピオンに輝きました。この白・緑・赤の鮮やかなカラーリングのマシンは、世界中のファンの記憶に深く刻まれ、「スープラ=A80=強い」というイメージを決定づけたのです。
- A70スープラ:A70もグループAというカテゴリーでレースに参戦していました。しかし、当時は無敵の強さを誇った**「R32 スカイラインGT-R」**の全盛期。残念ながら、A70はGT-Rの高い壁に阻まれ、レースシーンの主役になることはできませんでした。
このレースでの活躍の差は、ゲームの世界にも影響を及ぼします。大人気レースゲームの**『グランツーリスモ』**シリーズでは、あの「カストロール・トムス・スープラ」が長年にわたり看板車種の一つとして登場。ゲームを通じてA80の存在を知り、憧れを抱いた若い世代は数知れません。このメディア露出の差が、A80のブランド力をさらに強固なものにしたのです。
そして、スープラを語る上で欠かせないのが**「エンジン神話」**です。
- A80の「2JZ-GTE」エンジン:鋳鉄製の頑丈なブロックを持つこのエンジンは、少しの改造で700馬力、本格的なチューニングを施せば1000馬力以上も受け止める驚異的な耐久性を誇ります。この「どこまでもパワーアップできる」という伝説が、世界中のチューナーを惹きつけ、A80を特別な存在へと押し上げました。
- A70の「1JZ-GTE」エンジン:こちらも非常に優れたエンジンで、500馬力級までなら十分に狙えるポテンシャルを持っています。しかし、「1000馬力」という圧倒的なインパクトを持つ2JZと比べると、どうしても話題性で見劣りしてしまったのです。
有名チューニングショップが作るデモカーも、A80ベースのものが圧倒的に多く、最高速チャレンジなどの“伝説的な逸話”もA80に集中しました。こうして、A80には数々の神話が積み重なっていったのです。
▼ 現代のチューニングシーンでは A70は、今なおチューニングベースとして根強い人気があります。特に、A80に搭載されている2JZエンジンをA70に載せ替える**「エンジンスワップ」**の素材として人気を博しています。これは、A70のボディが持つポテンシャルの高さを証明しているとも言えます。しかし、それは「A70そのもの」というよりは、「JZエンジンを載せる器」として評価されている側面もあり、少し複雑な心境になるファンもいるかもしれません。
▼ 情報格差がもたらすもの 国内のオーナーズクラブを見れば、A70に関するパーツレビューや整備手帳は数万件と、非常に充実しています。しかし、一歩海外に目を向けると、YouTubeの動画や英語の記事など、情報の量はA80が圧倒的です。この世界的な情報量の差が、国際的な知名度や人気の差につながっているのかもしれません。A70は、まだまだ知られていない魅力が隠された、宝の山のような存在だとも言えるかも。
70スープラが人気のない理由④:市場価値
A70スープラがA60やA80に比べて「人気がない」ように見える市場構造は、中古車の価格と流通台数に明確に表れています。A80が国際的な需要と極端な在庫不足で「高嶺の花」となっているのに対し、A70は比較的在庫が見つかりやすく価格も現実的なため、**「割安」**に見えるものの、爆発的な価格高騰には至っていないのが現状です。
現在のスープラ三兄弟の中古車市場は、世代ごとに全く異なる世界が広がっています。
※価格・台数は2024年12月~2025年2月時点の情報を基にしています。
こうしてみると、A60とA70は差がなく、A80だけが抜けているように見えますね。この最大の理由は、A80を求める国際的な需要にあります。特にアメリカでは、製造から25年が経過したクルマは輸入規制が大幅に緩和される、通称**「25年ルール」**が存在します。1993年に登場したA80は、このルールの対象となったことでアメリカでの人気が爆発。映画やゲームの影響でA80に憧れていた海外のバイヤーが、日本のオークションで次々とA80を買い付けていったのです。
その結果、日本国内のA80の在庫は急激に減少し、価格が高騰。海外のオークションでは、A80のツインターボモデルが**平均約10万ドル(約1,500万円)**で取引されることも珍しくありません。この国際相場に、国内価格も引っ張られているのです。
一方で、A70はA80ほどの国際的なスター性を持たなかったため、この「海外需要バブル」の影響を限定的にしか受けていません。そのため、価格が上がり切らず、A80と比べると**「割安に見える」**という市場構造が生まれたのです。
もちろん、A70の中でも500台限定で生産された**「3.0GT Turbo A」**は別格です。状態の良い個体は1,300万円以上の価格で取引されることもあり、コレクターズアイテムとなっています。
▼ “今”A70を選ぶということの価値 この「割安に見える」状況は、見方を変えれば大きなチャンスです。A80のように投機的な目的で価格が乱高下するのではなく、A70は「クルマが好きで、運転を楽しみたい」という純粋なファンに向けた、適正な市場が形成されていると言えます。コレクターズアイテムとしてガレージに飾られるA80とは対照的に、A70は今まさに**「乗って楽しむための趣味車」**として、最高の選択肢の一つなのです。価格が落ち着いている今だからこそ、じっくりとコンディションの良い一台を探し、自分だけのスープラライフを始めるには絶好のタイミングなのかもしれません。
- 以下、参考出典
- トヨタ自動車株式会社. (n.d.). トヨタ自動車75年史 車両系統図.
- トヨタ自動車株式会社. (n.d.). トヨタ スープラ 2.5GTツインターボR. トヨタ認定中古車サイト.
- 日産自動車株式会社. (n.d.). NISSAN HERITAGE COLLECTION | Nissan Skyline GT-R (1989: BNR32).
- Supramania. (2011, March 27). Your 1JZ-GTE And 2JZ-GTE Swap Guide For Dummies.
- Drift HQ. (n.d.). Toyota OEM 1JZ timing belt (13568-49025).
- Driftmotion. (n.d.). Stage 1 Clutch Kit for R154.
- Supramania. (2009, August 28). The TEMS System and HKS EAC-T Bible.
- SupraForums. (2004, May 22). Targa Leak CURE — write-up.